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喜作と別れてから、房一は歩きにくい足もとの円石に目を落して何となく考へこんだ風に歩いて行つた。
その一揃ひの紙衣裳を見て、道平はまじめに感心した。
「ふむ、さうすると――」
徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。
そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。
「これからどちらへ?」
「もはやお膳も据ゑていたゞきましたし、これで十分頂戴いたしたも同然でありますから、甚だ失礼ながらお先きに御免を蒙ります」
「さあ、どうぞ。仇かたきの家へ行つても朝茶はのめ、と云ふことがありますよ。お茶ぐらいはのんでもらはんと――」
と、徳次は足を踏ん張つたまゝ今泉に云ひかけた。こんなに彼の方から話しかけるなんてことは滅多になかつたので、よほど虫のいどころがよかつたのだらうが、それでもいつものあの愚弄するやうな色は争はれなかつた。
と、房一が進み出た。
男は力なげに口をあけていた。
練吉若夫婦は診察所の二階を居部屋にしていた。そこと正文夫婦の住む母家おもやとの間には一見して判る気風の相違が現れていた。正雄はそこへ近づかないやうに云ひふくめられていた。
「あれから――あんたに鮒をとつて上げようと思つて、今さつきまで淵に附いとつたんだが、たつたこれつぽちきり獲れなくてね。上げるといふほどの物ぢやないけんど――」