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今泉はうつむき気味に、すぐ前に坐つている庄谷の背中を見つめていた。するとその肩に一本の糸屑がくつついているのに気づいた。彼はそつと手を伸してつまみ上げた。庄谷はうしろをふり向いた。その白味の多い小さい目で無意味ににやりとした。そして又元の眠つたやうな無表情にかへつた。
「おとうちやん、どこへ行くの」
徳次は気が抜けたやうに、口のあたりをもごもごさせるきりだつた。
「ですが、何とも手のつけやうがない」
と、云つた。
房一は手足を洗ふと、簡単に診察着をひつかけて表へ廻つた。
「どうしなさつた」
「どうだ。起きられるか」
「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。
むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。
「君に云つとくが、何んだぜ、小倉組の者なんかにかゝり合ひをつけちやいかんぜ」
「大石の御老人は見えんやうだな」
「ねえ。はやく」